歴史


 花の魔王人形のおかげで、城のあちこちに、緑が増えてきた。自動で選定や水撒きをする設備が整っているおかげも勿論だけれど、綺麗に保つことが出来ているのは草木の知識が増えて対応がわかってきた影響が大きい。

 この城は元々、花の魔王が所持していた城で、紅の魔王がボクの暮らしやすいようアレンジを加えたものだ。そのアレンジのアイディアはボクでもなければ紅の魔王でもなく、花の魔王のものでもない。
 だから、ボクは花の魔王がこの城でどう過ごしていたのか知りたくなった。茶葉畑はあるが、花を育てていた訳ではないらしいのだ。

「キミはここで、どんな暮らしをしていたの」

 尋ねてみても人形から返事はない。首を傾げていると丁度ウサギがやって来た。

「花の解説に特化した人形ですからなあ。話に対応しきれなかったのかもしれません。代わりにその辺りのお話は我輩が致しましょう。伝え聞いた限りのお話ですが」

 そういうものなのだろうか。前にお茶の話を聞いた時は、普通に話が出来たから意識していなかった。植物知識を絡めた話でなければできないのだろうか。気を取り直してウサギの話を聞いてみると、次のような昔話が始まった。

 昔、各地に茶葉を作る魔王城がたくさんあったらしい。その用途は、怒れる世界の創造主が目覚める迄の備え。期限は15週。その世界の創造主は紅茶の女神で、怒りを鎮めるために茶葉が必要だった。
 紅茶の女神は世界を作った後すぐ滅んだとされていたが、突然復活の予言がなされたという。予言では、創造主は自分のいない間にあちこちから来た他の神々を侵入者として裁くだろうと言われていた。
 そして実際に目覚める迄の間、発狂した思考と不死身の肉体を持つ“勇者”が差し向けられた。魔王達は“勇者”達から茶葉と城を護るために、さまざまな設備を城に搭載しながら茶葉を生産し続けたという。
 花の魔王も、茶葉を育てながら城を守る暮らしをしていた一人だった。そしてたまたま植物をモチーフにした設備を売った時に、「花の魔王」と呼ばれたことがあったそうだ。

「当時の茶の木の苗は魔王の魔力を吸って成長する性質を持っておりましたから、この城の花もその性質は受け継いでいるかもしれませんな」

 ボクはここまで聞いて、今のボク達と似ていると思った。この世界が滅びると予言されたのも15週。襲う勇者ばかりではないけれど、勇者の来訪に備えて城を構える魔王たち。
 けれど、ボクは世界の行く末と言われても、あまり想像できていないところがある。ボクは世界の在り方に関わらず、紅の魔王に命を与えられているのだ。

──かの世界で15週の時を過ごし、私の満足を得てみせろ。

 もしかしたら花の魔王も、ボクのように世界の規則に従いながら、まったく別の方向を目指していたのかもしれない。魔王の役割とは関係ない願いを抱きながら、世界に身を置いていたのかもしれない。
 それでも、花の魔王は世界や役割とは関係なく紅茶が好きだったようだけれど。
 誰かが好きだったもの。それがボクの前に広がっている。魔王だった彼は、毎日何を想って茶葉を収穫していたのだろう。同じように紅茶の木を育てたらわかるだろうか。
 ボクは、紅茶の木の苗を買うことにした。