勉強


 色んな人が居て、色んなものが売られている。みんな売るものについて、よく知っている。
 今週の販売に向かった区域では見かけたことのある顔もいくつかあった。魔王として商売を始めてから縁のあった人達だ。
 彼らの中には商品を強奪する勇者に標的を絞って撃退に専念している魔王も居た。みんながものの売り買いのみで金策を練っている訳では無いらしい。彼らは防衛した分の報酬が貰っている。戦闘力を売っている、ということなのかもしれない。色んな人が居て、色んなものを売っているのだ。
 ボクはと言えば、お喋りなウサギに手伝って貰ってやっと商売ができている。この城には花が沢山あるのに、ボクは全く花のことを知らない。……というのはこの間までの話。
 花の魔王人形を作ってもらってから、人形を先生にしてボクは花について勉強するようになった。少女のような出で立ちの彼はとても物知りだ。
 花についてもっと詳しくなれば、この城に植わっている植物を上手に売れるかもしれない。それで、ボクはもっと花を知りたいと思った。
 花は生き物で、世話をしないと枯れてしまう。これは紅の魔王が最初にくれた知識で覚えたことだ。放っておいても近場の栄養で育つ花もあれば、手間暇掛けなけれはすぐ枯れてしまう花もあるらしい。
 中でも薔薇はとてもむずかしい。品種にもよるけれど、病気に掛からないよう世話をする必要があるという。これは花の魔王の人形が解説してくれた。
 勉強を始めてからは少しずつ知識が増えてきた。お喋りなウサギからはおしゃれな花の飾り付け方を色々教えて貰ったので、カゴに剪定した花を飾り立てたものを、魔王が集まるツリーハウスに持って行った。フラワーアレンジメントと呼ばれるものだ。それは他の魔王たちにも受け入れられたように思う。
 花は、見た目や香りに良さを感じる人が多いようだ。

「花を売るにはどうすればいいんだろう……?」
「ふーむ。先日、魔王仲間の下へ挨拶に持参した花かごのような飾り方をする手もありますが……他にも考えてみましょうか」

 ウサギは小首を傾げる。あまり、知識にあるウサギらしくはない動きだと思った。

「先日幸い花は沢山あるのですし、お渡しする物資などの商品に花を添える、なんてキャンペーンを設けるのはどうでしょう? ほら、お花屋さんとして覚えて頂くところから……という事で」

 お花屋さん。ウサギの上げたその肩書きを何度か呟く。この、閉ざされた星空の下で花を売ろうとするボクは花屋なのだ。
 ボクは頷いた。この城で『星空の花屋』として名を上げることがきっと、ボクが何者かになる近道だ。