星空の籠
紅の魔王は花屋に、知識と城を与えました。
「必要なものは用意してやる。まずはお前の拠点」
魔王は四畳半ほどの大きな鳥籠の前に花屋を連れて来ます。内側に立ち込める夜色の靄に遮られて向こう側は見えません。ただ、籠の底からは色とりどりの花が覗いていました。
「お前らしい城だろう? そう、以前のお前がコンセプトだ。持ち主の消えた城に大まかに手を加えたものだがな。茶葉栽培に使っていた土壌なんかもあるが……耕すところからだろう」
首を傾げる花屋に魔王はくつくつと笑います。どこにも畑は見えないし、城にはとても見えません。
「狭い常識に囚われているな? 忘れろ! そしてその目で世界を確かめるがいい!」
魔王は花屋の頭を掴むと、籠の入口を開き夜色の靄に押し込みました。
首だけ中に入った花屋は目を丸くします。目の前には確かに城があったのです。巨大なな木が絡みついた石の壁が聳え立ち、所々夜色の靄が漂っています。上を見上げると、逞しい木の枝の間に、首を入れる前と同じ大きな鳥籠が挟まっていました。
「この内側の空間こそがお前の城。あの要塞の頂点こそ、お前の本拠地だ。これならば押し寄せる心無き勇者にそう簡単に物資を強奪されることもないだろう」
この世界には、物資を求めて各地の魔王城へ押し入る勇者が多数いるのだと魔王は言います。
花屋は首を戻して、どうやって来訪者を追い払えば良いのかと尋ねました。
「世界の理には従っておけ。いや、面白いから乗っておけ。皆が力ずくの連中ではない。この世界は金こそ力の象徴。奴らはみんな、“お客様”だ」
追い払うのではなく、迎え入れろと魔王は教えます。そして自分の城にある、価値あるものをたくさん譲って対価を貰うのだと続けました。
城にあるものを求めるだけのお客様には快く、奪い取ろうとするお客様には立ち向かってから対応しろと魔王は告げます。
「だが用心しろ、今のお前は非力だ。自分の力のみで城に押し寄せる者すべてを倒すことは到底できまい。この世界にあるものを駆使して城を守るのだ」
この世界には、城を構えて勇者を迎える“魔王”が他にも居ます。そして彼らもまた、自分達の作った商品や所有物を売り合っているのです。
「支援者として私のしもべを置いて行こう。分からないことはそいつに聞け。うまくやれよ」
紅の魔王は目を細めて、花屋の城を去って行きました。ややあって、籠の中から、角の生えた黒いウサギのような動物が現れました。体や耳に白い蔦のような模様が渦巻いています。
「やあやあ、我輩が支援を担当致しますウサギです。以後お見知り置きを」
黄色の目を細めてウサギは恭しく挨拶をします。花屋はそっと手を伸ばし、その黒い毛皮に手を埋めました。
「やあやあこれは大胆なご挨拶が、やや、やあやあ、やあやあやあちょ、やあー!?」
花屋は初めて触る動物の毛皮に暫く夢中になったのでした。
