紅茶


 収穫したカモミールを日に晒してから一週間ほど経った。花の魔王人形の指示に従って、ティースプーンで花を山盛り一杯掬ってポットに入れる。それからお湯を注いで5分ほど蒸らせば出来上がり。
 既にいい香りだ。ハーブの透き通る香りの中に、甘く柔らかい香りも漂っている。

「はちみつやミルク、りんごやレモンバームなどとの相性も良いので是非お試しあれ! 私はローズティーも好きなのですが、薔薇は育てるのが少し大変ですからねえ。それこそ乙女のように繊細で!」

 花の魔王人形が朗々と解説する。
 レモンバームというのもまたハーブの名前だ。レモンのような爽やかな香りのするハーブらしい。これも今度探してみよう。
 花の魔王はお茶をよく作っていたのだろうか。お茶作りにも詳しいから、紅茶の魔王も名乗れそうだ。興味本位でここでお茶を作っていたのかと人形に訊いてみた。

「そりゃあもう! お茶ばかり作っていましたねー。寧ろ花の方がレアでした。茶葉畑がありませんでしたか? そちらで紅茶の木が育てられるんですよー。ローズティーも茶葉やハーブとブレンドすると深みが増して一層美味しく頂けちゃって!」

 確かに、紅の魔王から城を貰った時に聞いた気がする。植物を育てるには土を耕すところからと告げられていた。
 正直、空間の中に広がる城については規模が大きくて把握しきれていなかった。まだ知らない設備や生き物も沢山あるんだろう。
 しかし花の魔王が花をあまり扱っていなかったとは少し意外だった。本当に紅茶の魔王かもしれない。そもそも扱っていなかったのならなぜ、“花の魔王”なのだろう?

「さて、そろそろいい頃合! 疲労回復や鎮静作用があるのでこれから行くお仕事の後にもオススメですよ」

 疑問が浮かんだところでポットのカモミールティーが丁度良く。蒸らし過ぎるのも良くないとのことで、早速頂く。
 カップに注いでカモミールティーを口にする。爽やかな香りがふわりと鼻を抜けて、収穫した時の記憶が蘇った。彼が、光の中に生きていたと理解したことも。
 “彼”はボクよりずっと世界を知っている。それでいて望むのは小さな世界なのだ。だって、彼の最も強い願いは「好きな人の隣」だったのだから。

 この城の星空や、花は綺麗なのだと言う。ずっと見ていられるような、嫌味のない在り方。それが、美しさなのだと思う。きっと“彼”も好きなもの。けれどきっと、それはどれだけ広くても偽物ではいけなかった。
 カップを口にする。ボクは、本物の美しさにようやく触れることができたのだ。
 初めて飲んだ花のお茶は、優しく囁く味がした。