第9更新 アーモンド小魚は心の扉を開ける鍵

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 霊山家の子供達は皆、小学生の頃は剣道教室に通わせられる。
 勿論武道やスポーツの範疇だから、退魔にそのまま活かすのは難しい。
 しかし珠緒の父である秋水は、武道の精神や体を育むために積極的に通わせる方針としていた。素養があればそのまま実践的な剣術を学び、呪具の刀を振るうことになる。
 長男の榮花は5つ、次男の天樹は4つ、珠緒と歳が離れている。成長期の年齢差は体格にも大きく影響し、兄弟で試合をすれば珠緒は必ず負けていた。

「ずりぃよ! エーカ兄もテン兄もでかいんだもん!」

 8歳の珠緒は率直に文句をぶつけた。
 片や12歳、片や13歳。第二次性徴期へ突入した人間はあまりに高い壁だ。

「仕方ないだろ。でかくなったんだもん」

 天樹にも適当にあしらわれ、珠緒はふてくされる。
 理由がなんであろうと珠緒にはどうしようもない。どうにかする力が無い。それがとてももどかしい。
 榮花は困ったように笑って、おやつに持って来ていた小魚アーモンドの小袋を取り出した。珠緒の好物だ。

「珠緒、珠緒。これやるよ」
「いらない」

 買収されてなるものか。小馬鹿にされている気がして、珠緒は意地を張った。

「兄ちゃんのもやるから機嫌直してよ」
「……いらない」

 本当は欲しい。けれど折れれば自分が更に負ける気がした。もう小学3年生にもなるのに、幼稚園児のような扱いをされては男が廃るのである。

「なーおーしーてーよー」

 榮花は固く結ばれた珠緒の唇にぐりぐりと無理やり乾燥小魚を捩じ込んだ。
 それはもう、意地に意地で対抗するように顔を固定して力技で。
 いつの間にか天樹まで珠緒を羽交い締めして加担している。

「んっふふふ」

 自分はなぜ小魚おやつを無理矢理食わされているのか。なんで兄共はこんな事にムキになっているのかとおかしくなってしまう。珠緒の負けだ。
 
「よし食べた食べた。いっぱい食えー、大きくなるぞ」

 満足そうな榮花が小袋ごとアーモンド小魚を渡す。珠緒は小魚を咀嚼しながらいくらか棘の取れた視線を向けた。
 噛めば噛むほど、塩味と袋に詰められたアーモンドの風味が舌にじわりと広がる。

「珠緒も背くらいその内伸びるって。伸びたら勝敗もわからんよ?」
「伸びても小さいかもしれないけど」

 余計な一言を足す天樹にチョップが入った。いてえ、とぼやきながら天樹がふらふら離れる。

「まあ、だから大きくなって改めて勝負したら違うかも……あ?」

 カサカサと音がして振り向くと、天樹が今日のおやつが入ったレジ袋を持って逃走を図っていた。

「待て天樹コラァ!!」

 長男と次男の追いかけっこが始まる。
 榮花は自分を気に掛けた話をしてくれていた気はするのだけれども、愉快なので珠緒はどうでもよくなってしまった。