第5更新 実家の妹に送ったホワイトデーのマカロンは母が食べました

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 案の定、珠緒の嘘は天樹にすぐばれた。天樹が異界探索に連れ立つ退魔師を探す際、珠緒の名を見つけたのだ。
 呼ばれるままに珠緒はのこのこ現れて、今は異界の入口の前に居る。

「作戦参加者の一覧にお前の名前がある理由、聞かせてくれるか。出るなって言ったよな」
「俺も聞きたいんだけど。なんで喜楽里ちゃんまで居んの」

 天樹の隣、妹の喜楽里が並んで珠緒を待っていた。歳は珠緒の6つ下になる。もうすぐ高校2年生で、新学期を控えていた。
 なのに今、こうして東京まで来て、ここに居る。

「喜楽里だって退魔師だ。だからこっちに来た。これでいいか? 今は俺が質問してる」
「それはあんまりだろ。まだ16だぞ」
「作戦には一人でも多く人手が欲しい。歳に制限をつけられない状況だ。学校組織も関わっている」
「テン兄は喜楽里ちゃんが大事じゃないのかよ」

 天樹に珠緒は食ってかかる。
 前代未聞の規模で起きた巨大異界は不可解な点ばかりで、熟練の退魔師でさえリスクが高い。
 珠緒が言えたことではないが、経験の少ない喜楽里は未熟だ。
 歳若い妹を危うい目に遭わせることに、憤りを覚えていた。

「違うよ、タマ兄」

 喜楽里が口を挟む。怯えたような目をして、珠緒を見上げていた。

「テン兄は待ってて良いって言ってくれたんだよ。喜楽里がテン兄に頼んだんだ。だから怒らないでほしいな」

 喜楽里がくりくりと煌めく目で悲しそうに見つめるから、珠緒は言葉を詰まらせた。かわいいのだ、喜楽里は。こんなに愛くるしいのに、退魔の世界に身を投じようとしている。
 退魔師の家に生まれて、退魔に関わる生き方は珠緒も喜楽里も教えられてきた。危険を承知で最悪の事態の未然防止を図る世界。
 その過酷さを教えた上で、両親は進む道の強制まではしなかった。叔父のように呪具を作ったり、住居やカバー組織を手配する支援側としての生き方もある。
 両親も、天樹も、珠緒も、それは何度も説いていたのだが、喜楽里は子供の頃から怪異を祓う人間になることを望んでいた。
 「家の皆がやっているから」と。いずれ揺れ動くだろう子供の憧れと見ていたそれは、16歳になっても変わらないらしい。

「大丈夫だよ、テン兄も他の人も居るし! タマ兄が陽桜市に行ってからも、お母さんに沢山稽古つけてもらったもん」

 握り拳で浮かべる喜楽里の笑顔を、珠緒に止めることは出来なかった。
 言葉を返せない珠緒に、そういうことだから、と天樹が仕切り直す。

「もう一度聞くぞ。タマはなんで来た?」
「わかんだろ。一人だって人手が欲しいんだから。……俺だって、退魔師だし」
「家を出たお前が、それを言うのか」

 天樹の声が低くなる。
 天樹は、珠緒が退魔師の活動をすることを良しとしていなかった。もう、ずっとだ。珠緒が呪具職人の道を歩み出した頃から当たりが強い。

「家、出たの関係ある? 喜楽里ちゃんは行かせる癖に、俺は駄目な訳? おかしいでしょ」
「お前がまともに戦えるのか?」

 まともに戦えるのか。具体的に尋ねられた訳でもない。ごく単純な問いに、怯む。

「なんだよ。それ。俺みたいな奴は霊山の退魔師を名乗るなって?」

 目まぐるしく動く戦場に、臆病者の不安定な呪術。端的に言って最悪の組み合わせだ。
 本当に、本当に危なっかしいから怪異との戦闘は避けろ───天樹の忠告が蘇る。

「証明すりゃ、いいのかよ」

 口走っていた。珠緒の口が、頭で結論づける前に。相手に何か言わせる前に押し切ってしまえと、防衛本能でも働かせるように。

「俺だって問題なく退魔ができるって、見せれば良いんだろ!」

 気づけば啖呵を切っていた。弱い犬ほどよく吠えるとは、誰が言ったか。きっと、小型犬にでも見えていたのだろう。
 天樹と喜楽里の眼差しが、少なくとも信頼は感じられないそれだった。

「他の退魔師の皆さん待たせてんでしょ、早く行こうよ」

 早口に、返事を待たず異界に足を踏み出す。
 衝動のままに進む中、タマ兄、と喜楽里の呼ぶ声がした。