類を以て集まると言う言葉がある。
悪い夢、募らせた疑念、積み重なった不安が、時に望まぬ未来と対峙させるのもまた一つであるかもしれない。
鏡一面の異常な世界が、珠緒を呑み込んでいた。
鏡の中から見えないはずの視線が睨め付け、聞こえないはずの罵詈雑言が背中に刺さる。
心にじわりじわりと罅を作り進んだ先で、見知った少女が立ち尽くしていた。
彼女の拒絶が、風穴を空けた。
言葉の意味が見えずとも、その目と声とが語る感情は解ってしまう。
穿たれた穴に、居場所を焼き尽くす彩焔の悪夢が雪崩込む。
狂った歓喜の声が降り注ぐ。心をばらばらに削ぎ落しながら。
自分が信じた人に認められる条件というのは、こんな惨いところにあるのかと。
自分の信じてたものは所詮、泡沫の夢だったのかと。
混乱と絶望が捻れた渦を巻いて撹拌される。
それが異界の幻影であると正しく認識することも忘れ、泣き喚いて、何も出来ず、ひたすら少女の声に縋って。
珠緒の内側で喘ぐ懊悩呻吟を粗方食らいつくし、まやかしの嵐は止んだ。
最後に、デザートに乗せるミントみたいに一声添えて。
少女の泣き顔が脳裏に焼き付いていた。
あの子にしてやれることは、掛ける言葉は幾つもあった。
珠緒は、彼女に要らない傷を増やした。
手だけじゃない。気丈な彼女の流した涙がその証左だ。
聞かせなくていいことを知らせてしまった。
少女の怪我の処置をした後、その場に留まることなく逃げ帰る。
責苦に耐え兼ねた自分を守ろうとしていた。
酷い大人だ。
不甲斐なくて、情けないまま歩む帰り道は果てしなく長い。
ぐらぐらと思考と視界が揺らぐ。
覚束無い足取りは夜の闇を不確かに進み、道を迷わせる。
類を以て集まる。纏った超常の気配が、別なる超常と引かれ合うこともまた一つであるかもしれない。
迷いの先で、季節外れの祭囃子が珠緒を迎え入れた。
切り揃えられた黒髪が揺れた。
蝉の声と祭囃子の中、的屋を二人で巡る。
あるはずのない夏の宵。
8年前、雨のバス停で会った少女が人であったか狐であったか、今の珠緒には知る由もない。
何れにせよ、彼女を助けられなかったことは確かだ。
世界から消えた彼女を覚えていられるのは、世界の理に抗う術を持つ者だけ。
彼女の記憶を持ち帰れるのは、自分だけ。
珠緒は、痛みを持ち帰る。
胸の痛みを拾い集めて、珠緒は叔父・雨水の家に帰り着く。
叔父にはとても心配された。恐ろしく疲れた一日だった。
せめて夢見は良くしたいと思って、夢屋のクッキーを食べた。
このクッキーが、普通の美味しい焼き菓子であってもいい。もう一度買ったのも美味しかったからだ。
でも、形を同じくすればいつかのおまじないと同じように良好な眠りが叶うだろうかと。
おまじないと言うよりは、ほんのささやかな願掛けのようなもの。
信じたいから。
また笑ってほしいから。
約束を汚したくないから。
※家紋アイコン:君様 / フウィリーちゃんのアイコン:フユキ様










