ドラゴンと現と毒キノコ

 このゲームが夢ではないことを認識している。
 けれど、やっぱりここで起きる数々は現実離れしていると思う。

 このゲーム、没入感が凄まじいのだ。
 俺はアプリタップして起動しているだけなのに、五感全てがこのゲームの中に入り込む。
 目に映る景色、聞こえる音、においや触感。驚くべきは味覚までまるで現実のように錯覚する。意識がまるごと飛んだと表現した方がイメージに近い。

 他の人は、どうなのだろう。
 本当に俺と同じプレイヤーなのだろうか。
 時に生物的でない見た目のプレイキャラクターも居るのだし、ずっと人語を話さないような凝ったロールプレイをしている人も見かける。
 そうなるとプレイヤーの感じ方には個人差がありそうな気もする。
 もしかしたら会話しないのだって、ロールプレイではなくて仕様だったりするのかも。
 種族とか職業で一部機能やスキルが制限されるみたいな……そんなのあるのか、知らないけど。

 キャラクターメイキングした覚えもないのに多様なアバターが生成されているのも不思議だ。
 CAROLはプレイヤーが思い描く理想的な姿なんて言っていたけれど、ゲームのシナリオの話……だよな?
 理想の定義もよくわからない。そりゃあこの姿はここで遊ぶ分には意外と不都合は少ないのだが。
 技術は凄いのに、この辺りの疑問を全て解消する仕組みは無さそうだ。
 一体どこからリリースされたゲームなのだろう? 調べても調べてもわからない。

 俺はこのゲームの体験を、死なない程度に感じ取っている。
 例えば生身の俺が戦闘なんかしたら死んじゃうと思うのだが、このゲームで俺が受ける攻撃の類はHPゲージが残っている限り行動に支障を来たすことは無い。下回っても戦闘処理が終了すればまた遊べる。
 ポイズンマッシュを調理して食べてもみたが、気絶して幻覚を見る程度で済んだ。
 あまり美味しくはなかったので美味しいキノコの見分け方と毒抜き調理方法の知識が必要そうだ。
 このゲーム演出的な処理は、ゲーム自体の仕様ほかにこの体が優秀である可能性もある。俺自身も把握してない潜在能力のおかげで苦しむことなく遊べているのかも。その内デカいドラゴンに変身できたりしないものだろうか、と夢も膨らんだ。
 漫画や小説だと、痛みとか苦しさとかこの辺のリアリティが調節できる機能があったりするんだよな。もしもそういう機能があるとして、俺はずっとOFFでいいや。
 俺は苦痛を求めて遊んではいない。

 でも未知の体験には興味がある。
 俺は元気だし、ひとまずログアウトも可能だし、閉鎖空間で発生したデスゲームなんてことは今のところなさそうだ。
 そう言えるのは俺がログアウトが可能であることを確かめたからだが、これもあまり推奨される行為ではないらしい。
 一旦出ると再び入ってこれないことがあるそうだ。
 なら暫くここに居ようかと思う。
 理由は単純で、こちらの方が貴重で楽しいから。
 後々になってどんでん返しが無いことを祈る。
 もしも起きたら? その時考えよう。

 とりあえず、ポイズンマッシュを美味しく調理できるようになるのが目標だ。